全有機炭素測定装置(TOC計)は水道分析で広く利用されており、水質基準の重要な指標と考えられています。これまで水道分析におけるTOC計では燃焼酸化方式が広く使用されてきました。昨今、製薬企業などでは、高精度のTOC測定に対応した、前処理試験等の試験工数を大幅に改善可能な湿式酸化方式のTOC計の利用が増えています。
今回、湿式酸化方式のTOC計の有効性をより幅広く活用いただくために、ハックの湿式酸化方式TOC計 QbD1200+で、水道処理水、水道原水、および浴槽水のTOC分析を行い、燃焼酸化方式のTOC計と比較試験を行いました。QbD1200+は、湿式紫外線(UV)酸化方式のラボ用TOC計であり、オートサンプラーを利用して最大64サンプルまでの連続測定が可能です。特に1mg/L未満のTOC測定精度に優れており、最大100mg/Lまでと、幅広いTOC測定に対応しています。
TOC測定における課題を解決
湿式酸化方式のTOC計 QbD1200+は、従来のTOC測定における課題を解決するいくつかの特長があります。
●キャリーオーバーを改善する機能
サンプル測定毎に試薬洗浄 (オートサンプラーの針先を含む) を自動的に行い、前サンプルの影響を極力少なくするプログラムを組んでいます。これにより1回目の測定からデータを有効値として活用できます。
●サンプル測定前に行う日常点検の効率化
燃焼酸化方式のTOC計では、試験者が標準試薬を事前に準備し、検量線による校正試験を日常点検として実施する場合があり、試験者の負担が大きく、時間ロスも発生します。これに対して、QbD1200+は、酸化剤を測定するバックグラウンドテストと呼ばれる日常点検を実施します。この標準化された日常点検によって、試験者は試薬の事前準備や試験対応の負担を改善することができます。
評価試験の概要と結果
本評価試験では、代表的な燃焼酸化方式TOC計と ハックの QbD1200+について、水道試料(水道処理水、水道原水、浴槽水)を用いた妥当性評価と実試料の測定値の比較を行いました。酸化方式による測定値の差異や相関関係を確認したところ、QbD1200+によるTOC測定結果は、従来の燃焼酸化方式のTOC計と比較して高い相関関係を示しました。(図1)
次に、QbD1200+の妥当性評価として並行精度と真度の比較を行ったところ、同等の測定結果が確認されました。また、全ての評価項目において、水道水質検査方法の妥当性評価ガイドラインが示す目標値を満たしました。(表1、表2)
燃焼酸化方式のTOC計は様々な水アプリケーションに対応できる汎用性が評価されていますが、状況によっては、高精度が要求されるTOC測定に不向きな場合があり、TOC試験毎の前処理工数がかかること、燃焼管や触媒メンテナンス工数がかかるなどの課題点がありました。これに対して、ハックの湿式酸化方式TOC計 QbD1200+は、酸化分解能力や低濃度の測定精度に優れていること、さらに、燃焼酸化式TOC計と比較して、キャリーオーバー対策に優れ、前処理試験工数の改善、消耗品コストの改善も見込まれます。
今回の評価試験結果よりQbD1200+は水道原水や浴槽水などの水道分析においても幅広いTOC測定が精度よく安定的にできることが確認されました。これに加えて、QbD1200+は、ラボにおけるTOC測定において、試験担当者の工数やコスト負担など改善する効果が期待できます。
謝意 本評価試験を実施いただいた一般財団法人三重県環境保全事業団様に御礼を申し上げます。