嫌気性プロセスにおける揮発性脂肪酸(VFA)生成のモニタリングと最適化、アルカリ度とpHの制御は、消化槽や生物学的リン除去(EBPR:Enhanced biological phosphorus removal)プラントの急性障害やボトルネックを防ぐために不可欠な要因です。オンライン測定器の設置は、消化槽内の状態を常に把握できるため、このようなプロセスのモニターに有効な手段です。
オンラインVFA分析装置EZ7200は、pH、VFA、全アルカリ度、Pアルカリ度などのパラメータを測定し、嫌気性プロセスのモニタリング、制御、最適化、保護を容易にします。
スウェーデンの地方自治体合弁会社であるVIVAB社(Vatten & Miljö i Väst AB)の3つのサイトでのテスト、同じサンプルを3つの異なるメソッドで分析した内容をご紹介します。
EZ7200の設置
EZ7200は、前処理ユニット(写真1)と分析ユニット(写真2 )の2つで構成されています。前処理ユニットは、さまざまな種類のバルブ、フィルターを備えた前処理パネルと、空気圧調整器から構成されています。
ラボでの分析手順
EZ7200の評価のため、3つの異なる測定原理のラボ用測定器との比較を行います。
■ EZ7200のメソッド
EZ7200の分析メソッドにならった測定をします。
① Pアルカリ度の測定のために、20mLのサンプルを、0.1M硫酸(H₂SO₄)で滴定し、元のpHから pH5.75まで低下させます。
② 全アルカリ度の測定のために、滴定でpH4.3まで低下させます。pH4.0まで滴定し、炭酸塩を除去するために90秒間エアレーションを行います。
③ VFAを測定するために、0.02M水酸化ナトリウム(NaOH)で、pH4.0からpH5.0まで滴定を行います。
■ VIVAB社のメソッド(ファルケンベリ市)
ファルケンベリ市のラボで認定されている方法では、試験前にサンプルをろ過します。
① 50mLのサンプルを0.1M硫酸で滴定し、元のpHからpH5.75まで低下させ、Pアルカリ度を測定します。
② pH4.0まで下げて全アルカリ度を測定します。滴定はpH3.3から3.5の間になるまで続けます。
② サンプルを少なくとも3分間沸騰し、室温まで冷却した後、0.05M水酸化ナトリウム(NaOH)でpH4.0からpH7.0 まで滴定し、VFAを測定します。
■ ヴァールベリの認定ラボのメソッド
このラボでは、汚泥と蒸留水を1:1の比率で希釈する手法をとっています。
① 希釈後、サンプルは孔径6~10 µmのフィルターでろ過します。
② 10 mLのろ過後のサンプルと90 mLの蒸留水を混合し、0.05 M塩酸で滴定を行います。
③ Pアルカリ度はpH5.75で、全アルカリ度はpH4.00で測定されます。
④ VFAはハックのキュベットテスト(LCK 365)を用いて測定し、サンプルを遠心分離してろ過しました(フィルター孔径6~10 µm)。
3つのサイトへの導入
■ ゲッタロバケット下水処理場
ヴァ―ルベリ市にあるゲッタロバケットは、VIVAB社最大の下水処理場の1つです。処理能力は5,600kg BOD7/日で、これは80,000 PE(PE:Population Equivalent、人口換算)に相当します。
この従来型の施設は、一般家庭の下水を処理しており、水産・漁業からの工場排水が流入するBOD7負荷は約7%にすぎません。900 m³の消化槽が4基あり、総容量は3,600 m³です。EZ7200は、メイン消化槽に設置されました。この消化槽は最も大きなプロセス変動が発生すると予想されたからです。
さらに、VFAの増加によりプロセスが不安定になったり、アルカリ度が減少したりすることが、この消化槽で初期に確認できると予想されています。このような現象は、有機物負荷と汚泥濃縮の変化によって引き起こされる可能性があります。
■ カールスバーグ社の前処理
ファルケンベルグの市街地やその周辺には、さまざまな産業が立地しています。工業排水の状態が不安定なため、最大の下水処理場であるスメジホルメンでの処理は大きな課題となっています。
特に、カールスバーグ社のビール工場からの排水は、特別な前処理が必要でした。ここからの排水は、ファルケンベルグ市の南部にある嫌気性内部循環リアクター(IC反応槽)で前処理されます。VIVAB社はこの施設のメンテナンスと運用に携わっています。
このIC反応槽は、バイオガス生産量の強化と、スメジホルメン下水処理場で処理する前のBOD負荷を低減することを目的としています。
■ ウラレッド下水処理場
ウラレッド下水処理場は、ファルケンベルグの市街地に位置し、主にゲコーズのショッピングセンター(店舗、飲食店、キャンプ場)からの排水を受け入れています。
そのため、買い物客が多い時間帯や休日には、流入水の水質とBOD負荷に急激な変化が起こります。
ここでの処理能力は518kg BOD7/日で、7,400PEに相当します。ここは、生物脱リン法を用いた設備(BIO-P)と、VFA生成の循環型活性汚泥法(ARP)を採用しています。排水処理プロセスは、機械式処理、微生物処理、沈殿槽の3つの主要なステップから構成されています。
結果と考察
■ ゲッタロバケット下水処理場
EZ7200を設置した結果、ゲッタロバケット下水処理場の嫌気性消化プロセスの評価と性能の向上に役立ちました。
流入側の廃水が安定していたため、嫌気性消化プロセスでのアルカリ度とVFA値は非常に安定していました。オンライン測定値を詳しく見たところ、遠心分離機の停止など、プロセスにおけるわずかな変化の発生も、すぐに認識できることがわかりました。
プロセスの改善、エネルギー消費量の削減、コスト削減の可能性を示します。
前置濃縮器用のポリマーを節約することで、その使用量が3.8トン/年(2015年)からゼロになり、年間を通じ前置濃縮器を通した場合、最大で15万SEK/年(SEK:スウェーデンクローナ、約200万円/年)のコストダウンが可能です。さらに、汚泥の脱水性(水を拒絶する懸濁物質)を改善することで、汚泥の輸送コストの削減と内部循環の減少がもたらされます。
オンライン測定値との比較では、最適化後はすべてのグラフが同じ傾向を示しています(図1)。
VIVABメソッドの値は、ろ過を追加したことにより、オンライン測定値よりも低くなりました。
ラボでのEZ7200メソッドでは、VFA値が高いことを除き、オンライン測定値とほぼ同じ範囲でした。
VIVABメソッドでは、オンライン測定よりも常に低い値を示しましたが、これはサンプルの追加フィルタリングに起因するものです。
ヴァールベリの認定ラボの結果は、すべての測定値が異なる範囲にありましたが、同じ傾向にあったことを示しています。(図2+3)。
■ カールスバーグ社
全アルカリ度の値は非常に速く不規則に変化である一方、VFA値は30mg/Lから55mg/Lでの変動で、かなり安定しました。
VFA値の測定は、排水が流入してくるポイントでの全有機炭素(TOC)のオンライン測定と組み合わせると、より有効となります。これらの主要なパラメータに基づいて、反応槽への流入量の調整が可能となるからです。
オンライン測定値とラボ値の比較では、すべての値が同じ傾向を示しており、分析装置が正常に動作していることが示されました(図4+5)。
■ ウラレッド下水処理場
前述の結果に対し、オンライン分析計の結果はより不安定なものでした。
これは、通常の嫌気性消化槽で通常得られるレベルと比較して、特に活性汚泥のアルカリ度とVFAが著しく低かったことによるものと考えられます。
しかし得られた結果は、トレンドが正確であり、活性汚泥プロセスで予想される変動に追従しているため、信頼性の高いモニタリングが可能であること示しています。オンライン測定とラボでの結果を全期間にわたって比較しました。
ラボの値では、すべての値が同じ傾向を示しており、分析装置が適切に動作していることが示されました(図6)。
まとめ
EZ7200のテストトライアルは、分析結果が信頼できるかどうか、また、この分析装置が下水処理場のプロセス監視に有用な装置であるかの確認に焦点を絞って行われました。
装置の評価では、オンライン測定値が正確なことが示されました。オンライン測定値とラボでの測定値の比較から、すべての値が同じ傾向を示し、EZ7200の値は信頼性が高く、プロセスにおけるわずかな変化も識別することがわかりました。したがって、EZ7200は消化槽が酸性化するリスクなしに、プロセスの最適化が可能となるのです。ゲッタロバケット下水処理場では、前置濃縮器を通すことでプロセスを改善し、年間最大15万SEK/年(約200万円/年)の節約と汚泥の輸送コストが低減しました。
執筆者:
VIVAB 研究開発部 リサーチマネージャー :Alexander Keucken 博士
R&D エンジニア : Moshe Habagil 氏
環境エンジニア : Caroline Schleich 氏