溶存酸素とは、水に含まれる酸素分子の量を示す指標です。地球上の生物にとって、酸素はエネルギーの生成や血液中の不純物を排出するなどの重要な役割を果たしており必要不可欠です。しかし一方で、食品や一般の産業に目を向けると酸素は「あっては困るもの」です。酸化による香りや味への影響や、腐食による機器の破損などにつながる要因となるからです。このため、産業分野においても、多くの場面で溶存酸素がモニターされています。
溶存酸素の量を決定づける大きな要素
一般的に、溶存酸素の量を左右する要素として「大気圧」、「温度」、「不純物」が挙げられます。
- 気圧
気圧が高いほど、水の中の溶存酸素量が多くなります。上空からの圧力により、水はより多くの酸素分子を保持することができます。そのため、標高の高い場所では、気圧が低いためDO濃度が低くなります。 - 温度
水温が低い水域では、酸素分子の動きが少ないため、より多くの溶存酸素を含むことができます。温度の高い水中では、酸素分子の動きが活発になるため、酸素が水中から空気中に放出されます。
- 不純物(塩、濁度など)
例えば、塩分濃度が高いほどDO濃度が高くなります。これは塩分が気体の溶解度に影響を与え、基本的に酸素を水中から追い出すからです。
溶存酸素を測定する理由
液体中の溶存酸素を測定し、適切な溶存酸素レベルを維持するための処理は、多くのアプリケーションにおいて重要な機能です。溶存酸素は生命維持や処理プロセスに必要なものですが、有害な場合もあります。溶存酸素により酸化を引き起こすことにより、機器そのものを損傷させたり、製品を劣化させたりします。品質管理、規制遵守、プロセスコントロールと、溶存酸素測定の理由は多角的でありとても重要です。
溶存酸素を測定する方式と特徴
溶存酸素はどのように測定されるのでしょうか。試薬を使い酸化還元反応を活用する手法と、測定器(センサー)による自動分析があります。「ウィンクラー滴定法」は、天然水中の酸素濃度を測定する方法として、最初に認められたものとして知られています。また「ウィンクラーアジ化ナトリウム変法」は、ウィンクラー法の精度をあげたものです。手分析は手軽にできる測定方法ではありますが、専門の技術を要すほか、色で識別するために測定する個人の差が出てしまう場合があります。また実験室にサンプルを持ちこみ測定するために、環境が変わり状態が変化する可能性があります。このような理由からも、特に産業界におけるより正確性が求められる溶存酸素の測定では、個人差によらず現場で直接測定可能な「装置による測定」が理想的です。装置による溶存酸素の測定には、「隔膜式」と「光学式」があります。
- 隔膜式(ポーラログラフ法、ガルバニックセル法など)
溶存酸素に比例した電流を計測し、溶存酸素を測定する - 光学式(蛍光式)
酸素分子によって特異的に消光現象を起こす原理により測定する
計測にあたっては、測定用途によりどちらの方式を選別すべきかが変わってきます。例えば高濃度酸素の計測、例えば環境水、養殖池(魚介への酸素供給)、排水処理場(好気性処理でのブロア制御)などの場合には、高濃度用の蛍光式が適しているといわれます。電極内部の劣化がない、隔膜の交換の必要がないということがその理由です。これに対して、低・中濃度酸素の計測、例えば超純水、ウェハー洗浄の溶存酸素管理、事業・産業用の発電所の系統水、ビール、医薬品製造における残存酸素の管理、石化業界の各種有機溶剤や石油精製プロセスでの酸素濃度のモニタリングなどの場合(溶存酸素の濃度が数ppb~サブppbレベル)は、隔膜式が適しています。低濃度を高精度かつ安定的に測定ができることがその理由です。また、当社の溶存酸素計オービスフェアに関しては、ゼロ点がずれないということも、メリットの一つとして挙げられます。また、数100ppb~数1000ppbほどの純水などの場合には、蛍光式で安定的に測定が可能です。
なお、当社のオービスフェアは隔膜式・蛍光式の両方がございます。隔膜式では、空気一点校正でゼロ点調整が不要です。ゼロ点の極限0.1ppbを保証しているのが大きな特徴です。これはオービスフェア独自の構造によります。蛍光式は、メンテナンス性に優れています。蛍光強度を測定することにより酸素濃度を測定しており、どちらも多くの業界・分野で利用されています。以下、特徴比較をご参照ください。
現場で溶存酸素を測定する
実際の現場では、どのように溶存酸素を測定しているのでしょう。
先にみた、環境水、養殖池、排水処理場など、高濃度の溶存酸素測定には、ポータブルや投げ込み式と呼ばれるものがあります。プローブを直接池に投入したり、池のすぐそばに設置したりするような形式のものが多く見られます。
当社で扱っているような低・中濃度酸素の計測の場合には、状況に応じて「インライン」、「オンライン」、「オフライン」といった使い分けがされています。
「インライン」は、直接配管にセンサーソケットを設置することでサンプル中の溶存酸素をダイレクトに測定します。「オンライン」は、プロセスの特性上「インライン」の測定ができない場合に用いられることが多く、配管からフローチャンバーへサンプルを直接流入させることで、外部の酸素の影響を受けることなく測定する方法です。また、「オフライン」は、例えば飲料の業界などで、封入された製品をピックアップし、容器中の溶存酸素を専用のデバイスを活用して測定する方法となります。
測定の目的に応じた検出限界の製品選びを
時折聞かれる話として、プロセス中の溶存酸素の測定をしていて、値の上昇の挙動がないにもかかわらず、下流側で何等かのトラブルが散見される、というものがあります。作業手順書に則って測定はしているものの、実際には使用している溶存酸素計そのものの検出限界により、「検出限界以上の変動を捉えきれていなかった」ということが原因です。先にも述べた通り、特に低濃度の溶存酸素測定を必要とされる場面では、測定ポイントの後工程の配管腐食を誘発したり、最終製品の品質に大きく影響を与えることから、サンプルの特性やプロセスの環境などを考慮し、確かな測定ができる機器を選定するべきでしょう。可能であれば、導入前に必ずデモを実施し、検証することをお勧めします。
ハック・ウルトラでは、お客様の特定のプロセスアプリケーションにおいて溶存酸素レベルの監視と管理を向上させるために必要な測定機器を提供しています。