Hachジャーナル

【海外事例】嫌気性消化槽のモニタリングにより、 プロセス異常の回避とバイオガス生産の最大化を実現

嫌気性消化処理の消化槽

米国オハイオ州メディナ群
ケネス・W・ホッツ水資源再生施設

嫌気性消化の紹介

嫌気性消化は、公共および産業廃棄物の安定処理に利用されている技術です。処理工程で発生する、汚泥の病原菌の含有量を減らし、製品の安全性を高め、有効利用につなげるためのプロセスです。また、他の安定処理と異なり、発生したバイオガスからエネルギーを回収することが可能なため、様々な民間産業のほか、公共の水資源再生施設の約10%で利用されています。バイオガスは消化プロセスの副産物として生産され、ボイラーシステム、発電機のエンジン/タービン、さらには天然ガスなど、多様なエネルギーの生産処理に使用することができます。廃棄物に埋もれているエネルギーを回収できる嫌気性消化は、水資源再生施設が規制遵守の一環として資源回収に取り組む上で、魅力的な技術となっています。

嫌気性消化槽には、水資源再生施設の水処理工程の上流で発生する汚泥や、油脂、グリース(FOG)、食品/産業廃棄物などが投入されます。嫌気性消化槽には様々な構成(中温、高温など)がありますが、その目的は同じです。それは「自然に発生する生物学的経路を通じて、有機物が制御され安定的に分解されるような環境を作り出すこと」で、①加水分解、②酸生成、③酢酸生成、④メタン生成の4段階が、同時進行で行われます。

嫌気性消化プロセスの4段階

メタン生成菌は、温度、pH、様々な有害物質の存在など、多くのプロセス条件に敏感です。最適なパフォーマンスが発揮できるのは、pH6.8~7.2の範囲内です。消化槽内のpHレベルが低下すると、メタン生成菌が抑制され、消化プロセスやバイオガスの生産が完全に停止する可能性があります。

これは一般に消化槽の酸敗と呼ばれ、臭気が発生し、復旧に時間とコストが数万ドル(数百万円)かかる場合もあります。消化槽の安定性は、アルカリ度が高レベルの場合に大きく向上します。アルカリ度は、水中のアルカリ成分を炭酸カルシウム(CaCO₃)に換算し、表したものです。アルカリ度に含まれる弱塩基はpHを維持する緩衝能力があり、アルカリ度はpH変化の緩衝能力として定義されます。つまり、酸への傾きに対しての中和能力で、アルカリ度が高ければpHの安定性が高く、逆にアルカリ度が低ければ多少の変化でpHが大きく変動してしまうことになります。嫌気性消化槽では、アルカリ度は上図の②の段階でVFAが生成される際に低下します。アルカリ度は、メタン生成菌がVFAをメタンに変換する際に生成されます(上図③参照)。

消化槽管理者は、供給量、撹拌、加熱等の運転管理を注意深くモニタリングすることにより、VFAとアルカリ度の健全なバランスを維持することができます。

ケネス・W・ホッツ水資源再生施設の嫌気性消化槽

ケネス・W・ホッツ水資源再生施設の嫌気性消化槽

消化槽の異常やエネルギー回収の非効率性は、管理者が多く直面する課題です。嫌気性消化の効率は、消化槽に投入される菌を分解する前処理技術を導入することで大幅な改善が可能です。菌を分解することで、消化プロセスの効率化、エネルギー回収、環境保全、および廃棄物の削減が可能になります。そのような前処理技術の1つが熱加水分解プロセス(THP:Thermal Hydrolysis Process)です。このプロセスでは、極めて高い圧力と熱を利用して結果を得ることができます。嫌気性汚泥の前処理は消化プロセスを大幅に改善することができますが、消化槽への過剰な投入を防ぐためにシステムを注意深くモニタリングする必要があります。

嫌気性消化槽のモニタリング

一般的な嫌気性消化槽のモニタリングは、pH、アルカリ度、およびVFAをラボで分析するための定期的なサンプル採取が行われます(理想的には毎日)。ほとんどの嫌気性消化槽は、その運転条件に大きなばらつきがあります。そのような場合、異常事態を避けるため、あるいは単に性能とエネルギー回収を最大化するために、追加のモニタリングやサンプル採取の頻度の増加が必要になる場合があります。

消化槽の安定性と最適なエネルギー回収は、消化槽の健全性を示すいくつかの主要な指標を継続的なモニタリングで、一貫して安全に実施することができます。消化槽は温度とpHの変化に敏感であるため、オペレーターは異常が発生しないよう、消化槽の温度とpHをモニタリングすればよいと思うかもしれません。しかし、この方法では不十分な場合があります。

基本的に、pHが変化すると、利用可能なアルカリ度が枯渇するため、もはや消化槽の酸敗は避けられない可能性があります。このような場合、メタン生成はすでに阻害されている可能性が高いのです。消化槽で生成されるVFAとアルカリ度の比(VFA:ALK比、またはFOS/TACともいわれる)を直接リアルタイムでモニタリングすることは、嫌気性消化プロセスの全体的な健全性を把握する上でより有益な手段です。VFA:ALK比に加えて、アルカリ度のレベルは、原料の品質に連動して消化槽の安定性を判断するのに役立ちます(例えば、アルカリ度が高いレベルの場合は、タンパク質含有量が高い原料と関連しています)。このVFA:ALK比で、オペレーターはメタン生成菌の健康状態をより早く知ることができ、最適なパフォーマンスとエネルギー回収を維持することを可能にします。

ケーススタディ:メディナ地区衛生技術当局(旧リバプール下水処理場)

 

水資源再生施設の入り口

メディナ地区衛生技術当局
ケネス・W・ホッツWRF(水資源再生施設)

メディナ地区衛生技術当局は、メディナ郡、ブランズウィック郡、および他のいくつかの町村にサービスを提供する公益事業を支援しています。リバプール下水処理場として知られていた、ケネス・W・ホッツWRFを含む、3つの水資源再生施設を維持しています。この施設では、嫌気性消化システムから再生可能エネルギーを回収するための設備改修に資金を提供しました。

2010年代初頭、オハイオ州メディナ群のケネス・W・ホッツ水資源再生施設(旧リバプール下水処理場)のフィル・カミングス氏(施設責任者)とドーン・テイラー氏(施設責任者補佐役)は、汚泥処理プロセスをいかにして改善するかという課題に直面しました。既存の技術は老朽化した湿式酸化方式であり、稼働させるために大量のガスと電力を必要とする、エネルギー集約型でした。そこでコンサルタントと連携し、より環境的に持続可能でエネルギー的にもプラスとなる方向、つまり熱加水分解を用いた嫌気性消化に移行することを決定しました。

廃水処理から資源回収への移行

同地区では、バイオガスの生産と回収によるエネルギー効率を最大化するため、熱加水分解前処理を備えた嫌気性消化槽を採用することを決定しました。消化槽への最適な供給量を確保し、安定性を継続的にモニタリングするため、標準的なラボ測定手順(VFA、アルカリ度、pHのサンプル採取)を補うオンラインモニタリング技術の調査を開始しました。徹底した市場調査の後、消化槽のVFA、アルカリ度、pHをリアルタイムでモニタリングするハックのオンラインVFA計 EZ7200シリーズを導入することにしました。EZ7200シリーズは、熱加水分解システムの始動時に特に有効で、消化槽への供給流量が過剰となり、メタン生成菌のpHレベルが抑制されないようにするとともに、バイオガスの最大生産量を確保することができました。

VFA:ALK 比の評価に関する提案事項

VFA:ALK比の最適な範囲は、アプリケーションによって異なる場合があります。公共施設の場合、健全なVFA:ALK比は0.15から0.3、あるいは生物学的脱リンのプロセスと組み合わせて実施する場合は0.4までとなります。純粋な工業用途では、安全かつ健全な運転が維持される場合、もう少し高い範囲になることがあります。VFA:ALK比のオンラインモニタリングにより早期に警告を発することを可能にし、最適な消化槽の性能を維持する場合の課題は以下の通りです。

・変動する供給流量
・混合原料または未知の原料・加熱および撹拌効率
・メタン生成菌の抑制 (栄養不足や有害物質による)

オンラインモニタリングにより得られる可能性があるベネフィット

・汚泥中に含まれるエネルギーを回収し、付加価値を最大化
・嫌気性消化システムの健全性をリアルタイムで把握することにより、ダウンタイムを最小化

オンラインVFA計 EZ7200シリーズと、前処理装置EZ9130の概要

施設のスタッフは、以下のラボ手順を用いて定期的に消化槽のサンプリングを行いました。

VFA :エステル化法(メソッド10240)を用いたハックのTNTPlus™(TNT872)
アルカリ度 :ビュレット滴定、標準メソッド2320 B-97
pH: pH電極を使用

この施設では、ラボでの作業時間と労力を軽減し、またラボの外でも時間帯の嫌気性消化プロセスの可視性を高めるために、EZ7200シリーズは消化槽の一次循環ラインのサンプル地点に設置されました。最小限のメンテナンスで、厳しいサンプルに対応できるように設計された一体型のろ過システム(EZ9130高負荷サンプル向けろ過システム)を通して供給されます。そしてEZ7200シリーズで、サンプルのVFA、アルカリ度、pHが一度に自動測定されます。結果は10~15分ごとに得られます(頻度はカスタマイズ可能)。装置本体は、サンプルごとに揮発しない独自の酸/塩基滴定アルゴリズムで作動し、自動洗浄、校正、バリデーション、プライミングの順序を設定することが可能です。

EZ7250の外観

EZ7250の外観
VFA、アルカリ度、pHを1回でオンライン測定

EZ7250は、測定するパラメーターごとに3つの標準レンジを設定することができ、幅広い用途に対応することが可能です。この施設では、VFAに5,000mg/L、アルカリ度に100mEq/Lの標準値を設定しました。また、システムの立ち上げと同時にEZ7250を導入し、稼働状況をモニタリングしています。熱加水分解システムの立ち上げ時には、EZ7250が消化槽の大幅かつ急速な変化をとらえました。

この施設では、立ち上げ時に、現場の状況に合わせて装置の自動洗浄の頻度を微調整し、EZ7250の信頼性と精度を向上させました。それ以来、EZ7250は、消化槽の健全性と性能を継続的にモニタリングしています。また、システムのオンライン化に伴い、産業廃棄物の受け入れに関し、民間企業との協議を進めるための十分な余力があると判断しています。

「EZ7250で状況を細かくモニタリングできるようになったことで、起動時の供給量を素早く最適化でき、汚泥を大幅に削減できました。プロセスが安定してからは、その傾向をモニタリングし、どんな変化にもすぐに気づけるようになりました。その結果、予期せぬ変化にも素早く対応し、問題を回避するために必要な調整が可能になりました。」

ドーン・テイラー氏(施設責任者補佐役)

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